5:00起床。寝起きの儀式となった、テントを畳む作業の効率が日に日に上がっています。いやいや、しかし必要に迫られてちゃちなカフェでちゃちな朝食を取っていると、なにやら耳に入ってきたのは日本語でした。品のよい老齢のご夫婦が微笑みを交わしながら仲良く食事をしているのを見て、自分の食事が済んだら声をかけよう、と思っていましたが、暫らくすると私の周りは日本人だらけになってきてしまい、様子を伺ってみると皆さん同じツアーで一緒のようで、すっかりきっかけを失ってしまいました。レジ辺りでは、ツアーガイドらしき女性が「コーヒーはあちら、冷たい飲み物は向こうで…」と彼らに向かって叫んでいるのを見ました。その直後に、やはりぞろぞろとカフェに現れた小学生の遠足を引率する教師が同様に「食事を受け取ったら、こっちのテーブルに付くように」と言っていた調子が同じで、苦笑いを誘ったのは言うまでもありません。
7:15、サウス・カイバブトレイルヘッド(標高2213m)からウォーキングを開始しました。ここから北に、ファントム・ランチ(標高756m)を目指して、1457mの標高差をひたすら下る11.7kmのサウス・カイバブトレイルです。昨日、パーミット事務所で「普段の倍のカロリーを取るように、水は沢山飲むように、塩の補給を忘れないように」、などと散々言われ、どんなに過酷なトレイルかと思いきや、人の手の良く入ったトレイルは何の問題もなくさくさく進み、休憩、写真撮影を含めても3時間半でブライトエンジェルキャンプグラウンドに到着しました。何だ、昨日の午後からだって楽勝だったじゃないか。
しかし、いくら人の手が入っていると言っても、整備されたトレイルのみで、キャニオン本体の壮大さには手垢一つ付いていません。空は青く広く、コンドルが飛び、聞こえるのは自分が踏みしめる大地の音だけです。サボテンの花を楽しみ、リスやチップモンクが目の前に飛び出すのは可愛らしく、何かが動く気配で眼を留めると、しましまのトカゲだったり。時折行き違うハイカーは、そのほとんどが「この世の終わり」のような形相で、挨拶をする余裕さえ無くしているようでしたが、私は元気一杯でトレイルを下っていきました。
キャニオンの底には青く美しいコロラド川がその優美な姿をさらけ出していました。時刻は11:00になろうとしていて、水辺にもかかわらず気温が徐々に上がってくるのがわかります。とにかく、テントを張って、食事をして、さあ、釣りだ。
しかし、フローティング・ラインしか用意してこなかった私は、コロラド川のその豊満な水量と流れの速さにギヴアップするのも早く、夫が釣りを続ける中、その周りを探検、探索し始めました。
純粋な炎天下は、ただただ陽光が肌に突き刺さるようで、トーストされるパンの気持ちが良くわかります。日陰や、コロラド川に注ぐエンジェル・クリークに浸かりじっとしている人たち、鹿でさえ日陰で日中をやり過ごすその気持ちもわかりますが、私は子供のようにはしゃぎまわり、じっとしていることができません。
素足で川に入り、熱くなった岩に腰を下ろして、時々両脚、両腕に水をかけてやれば39℃でも快適です。被っていた帽子をバケツ代わりにして水を汲み、そのまま被ってアタマを濡らすテクニックは、思った以上に効果的で気に入ってしまいました。終いには、服を着たままどぼんとコロラド川に首まで浸かり、その水の冷たさに逆に冷えすぎてしまい、しばし炎天下の元で甲羅干しとなりました。それでも、気が付くとすっかり乾いてしまうのですから、素晴らしいと言う他ありません。
しかしこの暑さは、食料は全て入れておかなければならない金属の箱がオーヴン化する結果となり、m&m’sは爆発し融け、メンソレータムは完全に液体(融けると透明になることを発見)となっていました。予想外の出来事でしたが、他の食料に大きな被害がなかったのは、不幸中の幸いでした。
釣り人にくっついて午後のほとんどを歩き回り、眠る段になって初めて、ふくらはぎが筋肉痛だということに気付きました。痛くて寝返りが打てません。明日はずーっと登りだというのにね。
キャンプサイトには、人々が使用しているヘッドライトやランタン以外に明かりはなく、皆が寝静まった夜半に眼が覚めると、月明かりも届かない漆黒の暗闇には、思いのままに広がる満天の星たちが見えました。毎晩でも、決して飽きることのない、宝物の輝きです。
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